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最高裁判所第二小法廷 昭和46年(オ)748号 判決 1973年3月23日

上告人

宮下一春訴訟承継人

秋葉春枝

右訴訟代理人

妹尾修一朗

被上告人

宇沢靖朗

主文

東京高等裁判所が昭和四六年六月九日上告人に対し訴訟手続を受継すべきことを命じた決定を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人妹尾修一朗の上告理由について。

本件記録によれば、本件訴訟の経緯は次のとおりである。被上告人は、宮下一春を被告として、委任事務の処理にあたつて受け取つた金銭の引渡を求める本件訴を提起し、第一審で上告人勝訴を判決を得たが、宮下は、右判決に対し控訴を提起し、原審は、昭和四五年九月三〇日控訴棄却の判決を言い渡した。宮下は、右判決正本の送達を受けないで同年一二月二三日死亡したため、訴訟手続は、原審において中断するに至つた。そこで、被上告人は、昭和四六年六月七日、上告人が亡宮下一春の相続人であると主張し、上告人に訴訟手続を受継させることを求める申立をなし、原審は、民訴法二一七条所定の通知をすることなく、被上告人の提出した除籍謄本および住民票謄本により、右申立を理由があるものと認め、同月九日主文第一項掲記の受継決定をなし、同月一四日前記の控訴棄却の判決、右受継決定の各正本および前記受継申立書副本を一括して上告人に送達した。

ところで、控訴審の終局判決言渡後判決正本の送達前に訴訟当事者が死亡したため訴訟手続が中断した場合において、相手方当事者の受継の申立に基づき、新当事者に対し訴訟手続を受継すべきことを命ずる決定があつたときは、右受継決定に不服のある新当事者は、終局判決に対する上告をもつて適法に右受継決定のみの破棄を求めることができるものと解するのを相当とする。けだし、民訴法二一八条二項に定める受継決定に対しては、独立して抗告を申し立てることが許されず(大審院昭和九年(ク)第九四三号同年七月三一日決定・民集一三巻一四六〇頁参照)、民訴法三九六条、三六二条の規定に従い終局判決に対する上訴によつてのみ上級審の判断を受けることができるにすぎないものと解すべきところ(大審院昭和一二年(オ)第二三九〇号同一三年七月二二日判決・民集一七巻一四五四頁参照)、右受継決定は、終局判決の名宛人たる当事者を新当事者に変更する効果を伴なうものであるから、受継決定のみの破棄を求める上告を許さないとすれば、終局判決は新当事者に対する関係において確定することとなり、受継決定に不服のある新当事者が受継決定の当否を争い、自己に対する終局判決の確定による不利益を免れる機会を失なうこととなるからである。

そこで、本件受継決定の当否につき審按するに、上告人より東京家庭裁判所に対し相続放棄申述のあつた旨の同裁判所の昭和四六年八月一四日付証明書および右申述が受理された旨の同裁判所の同年一〇月一二日付証明書によれば、上告人は、亡宮下一春を被相続人とする相続につき、同年七月一日東京家庭裁判所に相続放棄の申述をなし、同裁判所は、同年一〇月一二日右申述を受理する旨の審判をしたことが認められる。したがつて、もし、論旨のいうように、前記の受継決定が上告人に送達された同年六月一四日に上告人が民法九一五条にいう「自己のために相続の開始があつたことを知つた」ものであるとするならば、民法九二一条一号または三号により単純承認をしたものとみなされる事由の存在その他特段の事情の存しないかぎり、右相続放棄は有効であり、上告人は本件訴訟手続を受け継ぐべき者ではないというべきである。

そもそも、訴訟手続受継の申立の当否については、裁判所は職権をもつて調査すべきものであるから、原審が、上告人において民訴法二〇八条二項にいう相続の放棄をなしうる期間を経過しているか否か、換言すれば上告人が自己のために相続の開始があつたことを知つた日はいつであるか、また上告人の相続放棄を無効とすべき理由はないか等につき審理を尽くすことなく、たやすく上告人が本件訴訟手続を受け継ぐべき者であると認定し、被上告人の訴訟手続受継の申立を理由があると認めて本件受継決定をしたことは違法の措置であるといわなければならない。右違法が前記受継決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、論旨は理由がある。

したがつて、本件受継決定は破棄を免れず、原審において被上告人の前記訴訟手続受継の申立の当否等右受継決定前の段階に立ちもどつて審理をやり直す必要があると認められるから、本件を東京高等裁判所に差し戻すこととする。

よつて、民訴法四〇七条一項の趣旨に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(岡原昌男 村上朝一 小川信雄)

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